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2008年10月2日木曜日

深浦加奈子お別れ会より一週間目の追悼



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深浦加奈子のお別れ会が、一週間前にウェスティンホテルで行われました。

その時はまだ暑かったのだけれど、この数日気温が下がって季節が変わってなんだか、やっと平常心に戻りつつある、のかなあ。(表向きには普通にいろいろ活動してたんだけどね)お別れ会の時、友人代表で贈る言葉を述べさせていただきましたが、そこにはまた、皆さんが知らない彼女の素敵なエピソードがあると思いますので、ここに掲載します。いや、しかし、私もとりあえず今後の人生しっかり歩き続かねばいかんよね。

以下、九月二十四日(水)@ウェスティンホテル恵比寿にて

深浦加奈子さんあなたが亡くなって今日で一ヶ月が経ちます。

五年間の長きにわたる闘病生活でしたが、今年の二月には元気に舞台で主役を務めていたこともあり、「もはやガンと折り合いを付けて、元気に生活していけるのでは」と思っていたら、八月十日にご実家から入院の連絡が入り、それから、ほどなくしてあなたは帰らぬ人となりました。
話したいことがいっぱいあったのに、もう、それを直接、耳にそれを届けることは出来なくなってしまいました。「退院したら、その時はお茶でも飲みながらいろいろ話をしよう」などとのんきな計画はあなたの死に際してもろくも崩れ去りました。病室での姿を見てもなお、「フカウラのことだから大丈夫」と私たちは皆信じていたのです。
 あなたに伝えたかったことを今、ここで一方的ではありますが、ほんの少しだけお話しさせていただきたいと思います。

あなたに初めてであったのは、小学校の四年生の四月でした。

まつげの長いもの凄く可愛い女の子が転校してきた、という噂は違うクラスの女の子たちの間でも話題になり、「つけまつげを体育館の裏で付けているのを見た!」というような無邪気な噂が駆けめぐったのは、今思えば、将来、女優として活躍するあなたの、いっとう最初のほほえましいゴシップだったと言えるでしょう。
 地元のこどもの国合唱団に参加していた縁で、私たちはすぐに大の仲良しになりました。
こども同士の無邪気な友達関係と言うよりも、たんに気が合う、というだけでもなく、私はとにかくあなたの放つ大人びたセンスやものの考え方に強くひかれたのです。
 当時、アバンギャルド路線をひた走っていた赤塚不二夫のマンガや筒井康隆、遠藤周作の交友録エッセイのような表現はあなたと私、そして数人の変わり者の女友達の間のバイブルのようになっていましたが、そんなセンスを最もクールに、そして大人顔負けのシニカルさでもって実行していたのはあなたです。当時、話題になり始めていた原宿の噂を聞きつけ、精一杯のおしゃれをして出かけたこともありましたね。あなたは未知の世界に私たちを触発し、連れて行ってくれる先達でした。当時のあなたは私のスーパースターでした。

こんな出来事がありました。

私たちの中学は私服でしたが、ジーンズだけは禁止。そして、先生の権力は絶対でした。ところが、遠足の時のあなたの出で立ちは、当時の流行のフィフティーズそのままのピンクのマンボズボンに襟を立てたスイングトップ。それはジーンズなんぞよりもよっぽどの不良アイテムゆえに、ことの経過をハラハラして見守っていたのですが、時代の風俗に無知な先生は「フカウラのスラックスいいね」とのんきに言う。それを大人を虜にする花のような笑顔を見せて「ええ、スラックスですから」と答え、後ろでぺろっと舌を出すようなところがあなたにはあった。
 全く、凄いウラバンぶりです。でも、こういうことをひとりでさらりとやってのけるあなたは、ものすごく格好良かった。男が男に惚れるという言葉がありますが、心ある女子はみんなあなたのファンでした。

 そんなクールなあなたが入学した女子校を止めて、日比谷高校を受験し直した時も驚きましたが、明治大学に入学してから、第三エロチカという過激な名前の劇団の旗揚げに参加するというのは寝耳に水でした。旗揚げ公演。酸欠になりそうな小劇場の暗がりで爆発するエネルギーの塊のようなあなたの姿は、今まで私が見知っている深浦加奈子のとは別の生き物のようで、その変化と圧倒的な存在感に私は驚愕しました。
 時代は相変わらず、というか以前にも増して、軽さ、意味の無さ、本気ではないことがカッコ良いというムードに覆われており、私も含めほとんどの若い女性はその影響下で女子大生ブームとやらに浮かれていたのですが、そんな風潮を尻目に、あなたはひとりで決して軽くはない、本格的な世界に毅然と足を踏み入れていました。

 今、いっしょに過ごしたいろんな場面が、出来事が思い出されます。
 山下達郎の葉山マリーナのコンサートに行った帰り、雨の中ずぶ濡れでボンクラ大学生の車をヒッチハイクしたことがありましたよね。そんなときにあなたがその輝くばかりの美貌とともに見せる”ぶりっこ”演技ぶりは本当に面白かった。横浜にあなたの車で遊びに行ったらレッカーされて、警察であなたは「何の悪気もない、か弱い女子大生」を迫真の演技で泣いて交渉したけれども、鬼の神奈川県警は車を返してはくれませんでした。あなたのとてつもない愛らしさ攻撃に心を動かされなかった若い警官はまさに警察の鏡でしたが、し方なく、ふたりでバンドホテルに泊まって、バッキー白片のハワイアンショウを観ましたね。それは、まるで昭和30年代にタイムスリップしたような空間と時間で、私たちは口をぽかんと開けて、ウクレレのあっけらかんとしたサウンドに身をまかせていました。 その不思議なホテルも今はもう在りません。  こんなふうに、あなたとの思い出のほとんどは、何がおきるかわからない冒険活劇のようでした。一生、いつまでもあなたと一緒に遊んでいたいと思わせてくれるすばらしい時間でした。  当時の若い女性というものは、今と違って大人に成った以降の選択肢がほとんど無く、限りなく精神的にはノーフューチャーでしたから、私たちはいつも苛立っていたのです。そんな中で、あなたはいつも凡庸な世間に切り込んでいく突撃隊長のようなところがありました。

 それから10数年。30代半ば、こちらがやっと本格的に仕事や人生と取り組むようになって、ようやく、あなたが若い時分に決断した境地に達し始めた頃、あなたは今度は軽やかに、テレビというまた別のプロフェッショナルなステージで独自の活躍を始めていました。あなたは常に私たちの前を行く人でした。

 そんな行動力と胆力を持った女性だったけれど、芸能界でメジャーの仕事が増えてからは、そのエネルギーが包容力のようなものに変化していったような気がします。アイドルから演技者として脱皮しようとしている女優さんの悩み相談を受けたり、若い役者さんたちの面倒をよく見ているようでした。それがどんなに役者さんたちの励みになったかということは容易に想像がつきます。

 深浦さんは本当に優しい人でした。優しくて強い人でした。「説教するぞー」などとおどけてはいましたが、たとえシビアなことを言っても、その根本には深い愛情があることを皆知っているので、彼女に相談を持ちかけるのです。私の取るに足らない不安や愚痴を温かく、そして厳しく、辛抱強く、電話で何時間もつきあってくれたことがたびたびありました。
 五年前、親しい友人だけにガンであることが知らされました。

 友人とは第三エロチカの初期のメンバーと地元久我山で深浦加奈子のカッコよさ、おもしろさに惹き付けられ30年以上も遊び続けている面々です。
 皮肉なことにいつもはお互いに忙しくて全員が顔を合わせることができない我々もこの五年の中ではたびたび全員が集まり、一緒に食事や旅行に行くことができました。最後の入院では、久々に病室に全員が揃って、写真を撮ったりバカ話をして盛り上がったり、まるで、中学時代の夏休みの登校日のような不思議な時間が存在しました。あなたは酸素チューブを鼻に入れながらも、相変わらずのシニカルな冗談を言って皆を笑わせていましたから、私はちょっとほっとして、小学校の時のマンガの貸し借りのように、「デトロイト・メタル・シティー」全巻を病院に送りましたが、それが読まれることは二度とありませんでした。

 それから、幾日も経たないうちに、病状は急速に進み、病院で最期のお別れをしました。モルヒネで意識がぼんやりした中で目と目が一瞬合ったのですが、すぐにあなたはうつむいてしまいました。しかし、握りしめた手をぎゅっと握り返してくれて、あなたは「ありがとう」と一言言った。
 私は私でものすごく言いたいことがあったのですが、その時は全く言葉が出ませんでした。「ありがとう」はこっちが言わなければならない言葉だったけれど、それをあなたの耳に届けることはもうできなくなってしまいました。
 深浦加奈子さん。

 あなたが天国に旅だった日より、前にも増してあなたが近くにいるような感じがします。それはまるで遠くに暮らす恋人を思う気持ちのようです。
 映画を観れば「この作品、フカウラだったら手厳しく酷評するだろうな」とか、下町の居酒屋に行けば「あのカップルについてフカウラならこういうね」とか、私のすべての生活にあなたが顔を出すようになった。
 あなたと話す機会は永遠に失われてしまいましたが、私の心の中にはしっかりとあなたという存在があります。もう、深夜の相談飲み会はできなくなりましたが、そんな夜はひとりで心の中のあなたに語りかけることにしましょう。

 あなたのにこやかに笑う写真に最後のお別れを申し上げ、心からご冥福をお祈り申し上げます。



 
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