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2017年10月10日火曜日

2017年10月10日


木ノ下歌舞伎の『心中天の網島』が京都ロームシアターで上演されていることが判明し、当日券で観劇。主宰の木ノ下裕一さんは、歌舞伎の研究者でありその熱が高じて「歌舞伎演目を本当に現代に呼び活ける」ことを是とした活動を続けていて、わたくし、彼の「忠臣蔵」の通し上演に大いにインスパイアされ、拙書「男をこじらせる前に」に「男と忠義の抜き差しならぬ関係」を一章を費やして書いたほどなのなのです。(文庫化のトークショーの後にまた彼の舞台に出会えるとは何かの縁を感じますねぇ)

近松作品の中でもこの作品は、心中に二人が追い込まれる過程が一級のサスペンスさながらに抜かりなく、市井の常識人たちが「社会のシステム(空気含む)」ゆえに、恋に落ちた二人を破滅させていく様があまりにも見事な作品。二人の死出の道行はまさに日本独特の諦観とタナトスエクスタシーに満ちて、文楽でも、蜷川幸雄作品でも「人の目に涙させる」こと必定であり、質感としては関西圏のお好み焼きのソース並みに濃厚で重いわけです。

しかし、今回の糸井幸之介(FUKAIPRODUCE羽衣)演出は、不倫してしまう治兵衛を「真面目に生きている男に突如恋の火が燃え移った」系ではなく、「上の空なチャラ男」にしたことで、歌舞伎ほかが行ってきた「重い悲劇感」が一掃。そのムードを補強しているのが、劇中に何度も現れる登場人物によるミュージカル仕立ての歌。

ミュージカル、これ、日本の演劇に挿入されるとその居心地の悪さにたいてい辟易する、劇薬のようなシロモノなのですが、今回はそうではなかった。ギターベースのブルージーなコードにハモりもふんだんに入って! 歌われる楽曲が、例えるならばウォン・カーアゥイ監督の「マイブルーベリーナイツ」におけるノラ・ジョーンズの音楽ばりの効果を上げているのですよ。

「誰でもいいから一度だけ心の中に入ってきて 誰でもいいから一度だけこの物語を終わらせてよ」というサビの歌詞。つまり孤独と運命を歌っているのですが、これ実は近松の濃厚な戯曲の骨子。しかし、ギター伴奏のその曲はプルースの乾いたあっけらかんさで嗚咽を吹き飛ばしてしまう。

そう、上の空のチャラ男とセックス好きの気性のいい若い女の破滅に至る不倫は、「信じられるものはお前との間の官能だけさ!」という、特権的(なぜなら、コレには身分や立場は不要だから)、だからこそ社会が警戒する男女関係。いといえ糸井演出の音楽づかいは官能の温度を伝えてあまりある。つまり、センスが良いのです。


http://natalie.mu/stage/news/251575
 
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